るりかけすの空は

観劇レビュー『シュート・ザ・クロウ』

先日、海外最前線の現代戯曲を、日本の注目若手演出家が手がけた「シリーズ・同時代<海外編>」の第2弾、 『シュート・ザ・クロウ』を新国立劇場へ観に行った。

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「shoot the crow」=「さっさと仕事を切り上げて、一杯飲みに行こうぜ」という意味を持つこの作品は、北アイルランド生まれ、 ベルファスト在住の戯曲家オーウェン・マカファーティーが1997年に発表した戯曲。
これを最近活躍のめざましい田村孝裕が演出した。

オーウェン・マカファーティーといえば、映画『モジョ・ミキボー(ミキボーと僕)』を観て以来、気になっていた作家だったので、 とても楽しみにしていた。
北アイルランドをテーマにした作家というと、紛争を真っ向から取り上げた作品がまず思い浮かぶのだが、この『シュート・ザ・クロウ』は紛争 とは全く関係のない、「仕事」がテーマである。

物語は、ベルファストの建築現場で働く4人のタイル職人たちが、タイル泥棒の計画をめぐり2組に分かれて駆け引きをくり広げる一日を描き出す。
再就職(窓拭き清掃夫)の資金が欲しい、今日を最後に引退のディン・ディン65歳と、
バイクが欲しい19歳の若者ランドルフ組。
一方は、 優秀な娘の留学資金が欲しいピッツィ36歳と、妻と息子に逃げられて何とかやり直したいソクラテス39歳組。

最後まで特に何かが起こるわけではなく、それぞれが家族や人生、ささやかな楽しみなどをひたすらにしゃべっているだけの舞台。
それだけなのに、 彼らの会話が国境をも越えてすんなりと観客を引き込むのは、雇用不安、経済格差、閉塞感など、現代日本社会の風潮にも合致しているからかもしれない。
そして、マカファーティーは「仕事に内在する矛盾」をこれでもかと突きつけてくるのである。

世の中には好きな仕事に就けている人がどれだけいるのだろう。
生活のため、家族のため、様々な名目のもとに、毎日重い足を引きずりながら、
好きでもない職場へ出かけて行く。
不満をもらしつつも、仕事のおかげでより良い人生が送れるのだと言い聞かせ、
せき立てられるようにして働く。
しかし、ふと立ち止まった瞬間、あるいはこの作品に出てくるディン・ディンのように、
引退することになった時、仕事に捧げて来た膨大な時間は無駄だったのではないかと
どうしようもない虚しさに襲われる。

しかし、だ。やっぱり働かなければ、生活していくことはできないのである。
これは考えたらやっていられないから、考えることを避けてしまう種の矛盾である。
だから、マカファーティーは『シュート・ザ・クロウ』を コメディという形で見せたのだろうか。
仕事とは、働くこととは何かと考えながら、観劇後にはある種の切なさが残った。

このような作品が日本でも紹介されることはとても嬉しい。
反面、残念だったのは4人のアンサンブルがいまひとつだったこと。
説得力のある芝居を見せてくれた平田満氏(=ディン・ディン)を除いては、
台詞回しや声の大きさなど、 各人に何かしら浮いてしまう部分が目立って、
芝居に集中し切れなかった感が否めない。

この日は終演後にフライデーパブがロビーに開設された。ギネスをちびりちびりと傾けながら、関係者の皆さんと色々な話をさせて頂いた。
それによるとこの作品、とにかくスラングばかりで翻訳が難航を極めたらしい。
言葉遊びの要素がふんだんにちりばめられた原作が、
翻訳劇になってどこまで忠実に上演されているのか。
あるいはどのように姿を変えたのか。
原書を読んで確認したいところだが、 残念ながら私の英語力では及ばなそうだ。

それにしても、この「同時代」シリーズ、非常に面白い作品を取り上げている。
第3弾の『タトゥー』のチケットも購入済み。
今度はドイツ人劇作家デーア・ローアーの作品。
舞台美術はベルリン在住の塩田千春が手がける。
作品自体への期待もさることながら、 どんな舞台美術が見られるのか大いに期待が膨らむ。

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舞台となったベルファストの町並み

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あのタイタニック号を建造したH&w社の造船所

(これは09.5.29にBOOK246 web siteに掲載されたコラムに加筆したものです)
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by sorapis | 2009-05-24 23:00 | Review:カルチャー

シンガーソングライターるりかけすの山と本とサブカルな日々の話。
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