るりかけすの空は

1歳児と映画館『ベルリン・フィル 最高のハーモニーを求めて』

毎月1日は映画の日。
そうだ、そんなことすっかり忘れていました。

そんな1日、久しぶりにぽっかり空いたオフの時間。
オフと言っても育児にオフはないのですが、それはさておき、一日がかりの予定がないのは本当に久しぶり。
そうとくれば、今どうしても観ておきたい映画があったのです。

それは『ベルリン・フィル 最高のハーモニーを求めて』。

126名の楽団員が、アジア6大都市をめぐるコンサートツアーを追ったドキュメンタリー映画です。
2年ほど前に『ベルリン・フィルと子供たち(原題:Rhythm Is It!』を観て以来、サイモン・ラトル(ベルリン・フィル主席指揮者)のファン。
この作品を10代、あるいは20代前半のうちに観たかった。そうしたら違った人生を歩けていたのではないかと思えるほど、出会えたことに感謝している映画なのです。
その監督トマス・グルベとラトルが再び組んだというのですから、観ないわけにはいきません。

実はこの作品、今年の9月のBelfast滞在中にBBCで放映されたものを観ていたのです。
でも、旅行中で家事の片手間に、アパートの申し訳程度のブラウン管テレビで観ていたに過ぎないので、ぜひ日本でも放映されないかと心待ちにしていたところでした。
まさか映画とは思いませんでしたが…。

ベルリン・フィルは先日来日しましたが、生で演奏を聴こうと思ったら、とんでもないチケット料金です。今の私には到底ムリ。
でも映画館なら、生にはかなわないとしても、かなり高音質の音でベルリン・フィルの演奏が聴けるのです。
そのため、オーケストラの音を堪能するには映画館に行く必要があります。

しかし、1歳児然はどうするか…。
まさか映画を観るために預けるわけにも行かず、映画館へ問い合わせたところ、あっさり許可が出たのです。

泣いたり騒いだりしたら、すぐに退場すると告げて着席。
映画の日とあって、月曜日の日中だというのに立ち見も出るほど。
親切な奥様が、最後部の通路側席を快く譲って下さいました。
客席の大半が楽器ケースを抱えている人か、スーツ姿のおじ様や品の良いおば様方。
この作品はベルリン・フィルの演奏を楽しみに来ている方も多いはず。子供の泣き声なんて許されません(苦笑)。

しかし始まってみればその心配も杞憂に終わりました。
予告編からスクリーンをしっかり見据える然さん。
本編が始まり、オケの演奏シーンでは満面の笑みで頭を振って(なぜか)タテノリ。
最近音楽が大好きで、音楽が流れてくると頭を振って、ヨコかタテかでリズムをいっぱしに取るのです。
拍手喝采のシーンになると、率先して拍手(当然ですが、映画館内で本当に拍手しているのは然だけ)。
その拍手以外の音は出すことなく、真剣にスクリーンを見つめたり、ウトウトしたり。
すぐに感極まって、涙をポタポタと落とし、鼻をすすり上げている泣き虫母さんを不思議そうな顔をして仰ぎ見ていました。

最近育児をしていて感じることは、子どもはまだ言葉が話せなくても、十分に雰囲気、声色などから言葉は分かっているのだということ。
だから、映画館へ向かう途中、これからどんなに素晴らしい音楽が聴けて、どんなに素晴らしいものが観られるのか、いっぱいいっぱい話しておきました(笑)。

団員の言葉ひとつひとつが、ラトルの言葉が。
どうしようもない位に突き刺さり、しみ込んできました。
これまでベルリン・フィルと言うと、世界最高峰のオーケストラ、高嶺の花のセレブ集団というイメージばかりが先行していましたが、楽団員個々は、ビッグネームの重圧と一個人の存在に悩み、葛藤する生身の人間なのだということを、痛いほど感じさせてくれます。
それぞれが一人の演奏家として素晴らしい才能を持ちながら、オーケストラの構成要素として突出することはできない。
そんなジレンマの中で苦しむ団員たちを乗せたベルリン・フィルという巨大な船を、ラトルが梶を取り、音楽は大洋へと漕ぎ出して行くのです。
映画は音楽が飛び立つ瞬間を垣間見せてくれます。
それは本当に感動に値する記録です。
生だったら息が止まるかもなぁ、なんて思いながら。

「私達はかつてみな変わり者だった。その我々がこうして受け入れられている」というラトルの言葉。
音楽家ならば向き合わずにはいられない圧倒的な孤独。自己との葛藤。
比較にもならないレベルでありながらも、物心ついた時から音楽と過ごしてきた私は、涙なしに見ることができませんでした。

R・シュトラウスの『英雄の生涯』6楽章になぞらえたアジア6都市。
映し出されるアジアの様相には、色々と異論がなくもありませんが、音楽のドキュメンタリーとしてはなかなかだったと思います。
来年3月にはDVDとして発売されるらしいので、多分買ってしまうだろうなぁ。

エンドロールが終わるまで誰も席を立たず、私も含めて映画の余韻に浸りました。
場内が明るくなると、お客さんは出口へ…向かわずに、然のところへやって来て、口々にお褒めの言葉をいただきました。今後の音楽英才教育についても沢山のアドバイスをいただきましたが、ごめんなさい、うちは英才教育とは無縁です(笑)。
いちいち笑顔で応えていた然。すごいなぁ、君は(苦笑)。

映画は数年無理だと思っていたけれど。
何とかなるものですね(笑)。
本当に素晴らしい時間を過ごしました。
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開演までの待ち時間にパチリ。
ちょっぴり緊張気味です。
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渋谷ユーロスペースのチケットブース前にて。
観賞後、とってもご機嫌?なご様子。
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by sorapis | 2008-12-01 23:52 | Review:カルチャー

シンガーソングライターるりかけすの山と本とサブカルな日々の話。
by sorapis
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